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長編小説 – アプリージョン

長編小説 – アプリージョン

春の午後の空気は、どこか気の抜けた炭酸飲料に似ている。刺激が薄れ、甘ったるさだけが空気中に沈殿しているような、あの独特の気怠さだ。
授業終了を告げるチャイムが鳴り響くと、教室の緊張感は一瞬にして霧散する。廊下をドタバタと駆ける騒がしい足音、部活動へと急ぐ声、遠くの旧校舎から響く吹奏楽部のたどたどしいチューニング。そんな聞き飽きるほどにありふれた「日常」の断片を背中に受けながら、俺はいつものように校門を抜けた。
新学期が始まって数週間。クラスの人間関係は早くも固定され、俺のような目立たない人間は教室の片隅で「背景」の一部として静かに機能している。それに対する不満はない。むしろ誰にも干渉されず、何者にも期待されないこの立ち位置こそが、俺にとっては最も居心地が良かった。
帰り道、西日に照らされ、長く伸びた自分の影を踏みながら、見慣れた通学路を歩く。特別に何かが起こる予感なんて、そのときの俺には微塵もなかった。
帰宅して、誰もいない静まり返った玄関でスニーカーを脱ぎ捨てる。

「ただいま」

小さく呟いた声は、誰もいない廊下に吸い込まれて消えた。両親は共働きで、夜遅くまで帰ってこない。この静寂こそが、俺の帰るべき場所だった。
自室のある二階へと階段を上がり、ドアを開ける。
俺は制服のブレザーを脱ぐことさえ面倒に感じ、カバンを床に放り出すと、そのままスプリングの軋むベッドへとダイブした。うつ伏せのまま、しばらく顔を枕に沈めた。窮屈な制服の襟元が首を絞めるような感覚があったので、少しだけネクタイを緩める。
カバンからはみ出た教科書の端が見えていたが、今は脳のメモリからその存在を完全に消去した。
代わりに手を伸ばしたのは、枕元に置かれた読みかけのマンガだった。
何度も読み返している、ファンタジーものの少年マンガ。ページをめくるたびに、指先に伝わる紙のざらついた質感。そして、かすかにインクの匂いが混じった自室の空気。これこそが俺にとっての最も平穏で、最も「正しい」放課後の過ごし方だった。この狭く、自分だけのルールで満たされた空間にいれば、外の厄介な現実に関わる必要はない。
どのくらいそのマンガに没頭しただろうか? マンガの物語が、ちょうど主人公とライバルが剣を交える佳境に入った、まさにその時だった。
静まり返った部屋に、電子的な通知音が短く、しかし鋭く響いた。

『ピロリン』

「……んぁ?」

意識の糸が、マンガの紙面から現実へと引き戻される。
仰向けの体勢に寝返りを打ちながら、サイドテーブルの上で青白く点滅しているスマートフォンを手に取った。画面を見ると、液晶には見慣れないアプリアイコンが表示されていた。
全体が不気味なほど漆黒で、中央に幾何学的な白いラインが一本引かれているだけの、奇妙なデザイン。送信元は不明。タイトルやヘッダーの記載もない。
ただ、液晶の暗闇にぽつんと浮かび上がるように、一言だけ、誘うようなメッセージが添えられていた。

『さぁ行こう!』

「……なんだこれ。スパムか?」

指先で画面を上下にスクロールしてみるが、やはりそれ以上の情報は何も出てこない。送り主の名前もなければ、リンク先のアドレスも表示されていない。
「さぁ行こう!」……あまりに短く、あまりに唐突。そしてどこか一方的な命令のようにも感じられる不気味な文言だった。
ふと、頭の片隅で思い出した。

「あ……、もしかして、あれか?」

最近、暇つぶしのために事前登録して、インストールしたまま放置していた新作スマホゲームがあったはずだ。事前登録者数が何万人を突破したとかで、SNSで少し話題になっていた、確かダークファンタジー系のRPGか、協力型のレイドバトル系のゲーム。
最近のスマホゲームの広告や運営の演出は、ユーザーを驚かせるために凝った手法を使うことが多い。これもその一環だろうか。新シーズン開始の合図か、あるいは特別なイベントの先行体験通知か。

「まあ、どうせ暇だしな。宿題をやるよりはマシだろ」

深く考えることもせず、俺は軽い気持ちで画面上の「開く」と書かれたボタンをタップした。
ただの暇つぶし。日常の延長線上にある、ちょっとした娯楽。そのはずだった。
だが、画面に指先が触れた瞬間、心臓の奥を冷たい針で一突きされたような、ゾッとするような電流が全身を駆け抜けた。

「え……?」

指先から始まった違和感は、一瞬にして確信的な恐怖へと変わる。
手の中にあるはずの端末が、尋常ではない速度で熱を持ち始めたのだ。リチウム電池が異常発熱したときのような温さではない。まるで、手のひらの中で小さな太陽が燃え盛っているかのような、文字通りの「灼熱」だった。熱い、という感覚が脳に届くよりも早く、液晶画面から溢れ出した光が網膜を焼いた。
その光は青白く、それでいてすべての色を内包したかのように冷たく輝いていた。
光は一瞬でスマートフォンの画面という枠をはみ出し、溢れ出す奔流となって部屋の四隅を侵食していく。
夕暮れ時の薄暗かったはずの室内が、影を一切許さないほどの真っ白な世界へと塗りつぶされていく。
ベッドの上に放り出されたマンガの続きも、床に脱ぎ捨てられたカバンも、窓の外から微かに聞こえていた遠い鳥の声も、すべてがその圧倒的な光の中に溶け、消えていく。
視界が、ただの白銀に染まる。
やがて、自分の足がシーツを捉えている感覚が消えた。重力が狂ったように、体が宙に浮いているのか、それとも底なしの底へと沈み込んでいるのかさえ判別がつかなくなる。平衡感覚が完全に消失し、三半規管が激しい悲鳴を上げた。
鼓動が耳元で、まるでドラムの連打のように爆音で鳴り響く。喉の奥がキュッと締め付けられ、酸素がうまく肺に届かない。

(おい! これ、マジで何のゲームだよ……! 嘘だろ!)

パニックに陥り、叫ぼうと口を開いたが、声は空気の振動にすらならず、光の中に吸い込まれて消えた。
全身を包むあまりの熱量と、同時に押し寄せる極限の寒気。二つの矛盾した感覚に脳の処理が追いつかなくなり、やがて、不知火(しらぬい)優斗(ゆうと)の意識の糸は、ぷつりと音を立てて千切れた。
彼は、自分の名前すら意味を持たないような、深く、果てしない闇の深淵へと、真っ逆さまに転落していった。

……頬を撫でる、冷たく澄んだ風の感触で目が覚めた。

「う、ぐ……」

どのくらい気を失っていたのだろうか。重い瞼を押し上げると、そこには自分の部屋の天井ではなく、吸い込まれるような碧い空がどこまでも広がっていた。
肺に流れ込む空気の密度が違う。濡れた草の匂いと、嗅いだことのない不思議な花の香りが鼻腔をくすぐる。体を起こそうとして、自分の手が「いつもの俺」ではないことに気づき、戦慄した。
学ランの袖ではない。中世の平民が纏うような、くすんだ色合いの布服。その上には、確かな硬度を感じさせる革の防具が備わっていた。そして傍らには、鈍い銀光を放つ一振りの剣。抜き放たれたそれは、手入れの行き届いた鉄剣のようで、刃こぼれ一つない鋭利な光を宿している。

「嘘、だろ……」

呆然と立ち尽くす俺の視界の端に、空中に浮遊する半透明のウィンドウが音もなく現れた。

『ようこそ、”こちら側”へ』

スマホで見たあの文字と同じ、どこか楽しげで、それでいて不可避な運命を感じさせる書体。
俺は、自分がもう「いつもの場所」にはいないことを、嫌というほど理解させられた。

視界の隅で明滅するアプリの名前は――【開発者】。それは、不知火 優斗という一人の少年の日常が、終わりを告げた瞬間だった。

『”こちら側”は基本的になんでもできます。それでは楽しんでください』

「こちら側ってなんだよ!!」

この文章に俺は適当すぎる運営に少しだけ怒る。だがこのままではらちが明かないので、とりあえずログアウトができるのか方法を探る。視界の隅にあるアプリを指先で触れてみる。するとログアウトボタンが出てきたのでボタンを押してみた。

「……よし、あった」

空中に浮いたウィンドウを操作し、設定画面の最下部にある『ログアウト』の文字を叩く。これで、あの気の抜けた炭酸飲料のような、退屈で愛おしい日常に戻れるはずだ。マンガの続きを読んで、夕飯を食べて、ブログの更新作業に戻る。それが俺の「正しい」過ごし方だ。
だが、期待は無機質な警告音によって打ち砕かれた。

『エラー:現在、バックグラウンド処理が実行中です。ログアウトは制限されています』

「はあ? バックグラウンド処理? 何も動かしてねーよ」

イライラしながら警告の詳細を開く。そこに表示されたのは、膨大な量のテキスト。いわゆる「利用規約(Terms of Service)」だった。俺はちょっとした開発者として、あるいはブロガーとして、規約の重要性は知っているつもりだ。だが、あの瞬間にこれを隅々まで読む奴がこの世に何人いる?

「……っ、これか」

俺の指が、ある一箇所で止まった。

【第44条:データのパブリッシュ設定】
本アプリ起動時、ユーザーは自身の全アクティビティを『アプリージョン・グローバルサーバー』へ常時公開することに同意したものとみなします。

※「公開しない」のチェックボックスをオフにしない限り、セッションの強制終了(ログアウト)は、一定のインプレッション(閲覧数)を獲得するまで許可されません。

「……冗談だろ」

背中に冷たい汗が流れる。あの時、俺が適当にスルーした「さぁ行こう!」の裏側に、こんな悪質な罠(トラップ)が仕込まれていたのか。つまり、俺がここで何をして、何を考えているのか、そのすべてが「全世界に生配信」されているのと同じ状態だということだ。
慌てて自分のステータス画面をスクロールする。そこには、今まで見たこともない項目が並んでいた。

現在のステータス: 公開(Public)
サーバー名: shiranui-yuto-01
ソースデータ: ローカル・ストレージ(ブログ、開発ログ、キャッシュ)
現在のPV(閲覧数): 12
コメント件数: 1

「12……? もう誰かに見られてるのか?」

さらに恐る恐る「ソースデータ」の詳細をタップする。そこには俺が必死に書いたトラブルシューティングの記事や、深夜に頭を抱えて組んだ開発用のコードが、この世界の「スキル」として再定義(ビルド)されていた。

保有スキル:【パージ・キャッシュ(一時抹消後、保存)】
• 元データ:『OS製品の不具合を3分で直す記事』
• 効果:対象の不必要なデータ(バグやデバフ)を強制消去する。

「おいおいおい……俺のブログが……武器になってるのか?」

その時、遠くからこちらへ向かってくる足音が聞こえた。鎧を纏った数人の男女。彼らの頭上には、浮遊するアイコンと名前が表示されている。

「おい、いたぞ! さっきサーバーリストに新着で上がった新人だ!」

「げっ……」

俺は本能的に、腰の鉄剣――いや、ブログからビルドされた「トラブルシューター」の柄を握りしめた。どうやら、開発者(コンテンツ)を消費しようとする「観客」たちが、もうそこまで来ているらしい。

「ログアウトできないなら……数字(PV)を稼いで、無理やりドアをこじ開けてやる」

不知火 優斗は、自嘲気味に笑った。かつてアクセス数を求めて画面に向き合ったあの情熱が、今は生き残るための武器へと変わる。

【俺の物語】――現在、パブリッシュ中。

「おい、見てみろよ。あの装備、やっぱりまだ『初期ビルド』そのまんまだぜ」

「しかもあいつのサーバー、ログが垂れ流しだ。……ぷっ、なんだよ『パージ・キャッシュ』って。そんな名前のスキル、この世界サーバーのどこに実装されてるんだよ」

近づいてきたのは、三人組のパーティーだった。先頭に立つのは、大仰なプレートアーマーを纏った大男。その頭上には【重騎士(正式版Ver.2.1)】という、いかにも「公式」らしい安定感のあるアプリ名が表示されている。
彼らの目は、冒険者としての警戒心よりも、珍しい見世物を見る野次馬のそれに近かった。

「……悪いが、今は取り込み中なんだ。その『公開』とやらを止める方法を知ってるなら教えてくれ」

俺は努めて冷静に、だが内心の動揺を隠せないまま言い放つ。

「止める? 無理無理。お前、同意したんだろ?『この世界のエンターテインメントの一部になる』って。お前は今、アプリージョンというOSの上で動く、一つの『無料コンテンツ』なんだよ。ちゃんと読んでねーとそうなっちまうんだよ。最初の設定で変えとけって書いてあったろ?」

男たちがゲラゲラと笑う。その瞬間、俺の視界の端に、先ほどまで「12」だった数字が「25」に跳ね上がるのが見えた。さらに、見たこともない通知が網膜を焼く。

『チップ(投げ銭)が発生しました: 10GB(ギガ・ブレス)』

「……っ!?」

足元に、銀色に輝く小さな光の粒が降り注いだ。それは地面に触れると同時に、俺が腰に下げていた鉄剣へと吸い込まれていく。鈍かった銀の刃が、一瞬だけ青白い電子の火花を散らし、その「解像度」を上げたように見えた。

「なんだ、今の……?」

「おい、今の見たか? 視聴者からリソースが送られたぞ」

「チッ、新人の無様な姿に同情した物好きがいたか。……なら、もっと『面白い絵面』にしてやろうか」

重騎士の男が、威嚇するように巨大な斧を地面に叩きつけた。システム的な火花が散り、大地のデータが削れる音が響く。
俺は理解した。この世界において、無名は弱さであり、注目は力だ。そして、今この瞬間、俺の「サーバー」を見ている誰かが、俺の窮地に「燃料」を注いだ。

(……ふざけんな。俺は、誰かの暇つぶしのためのコンテンツじゃない)

俺は、自分のスマホ内のデータを再検索する。自分のブログ、自分が書いたコード。その中に、この「強引な運営」と「無礼な観客」を黙らせるための、最適な『記事』はないか。
あった。一番PVを稼いだ、それでいて一番「厄介なエラー」に立ち向かった時の記録。

【検索ヒット:『OSが起動しない? スタートアップ修復を無限ループから救い出す方法』】

「……悪いな。お前らのその『公式アプリ』、俺から見れば致命的な脆弱性(穴)だらけだ」

俺は鉄剣の柄を握り直し、OSの深層に眠るロジックを叩き起こす。

「スキル発動――【システム・リペア(強制復旧)】」

俺の体が、白銀の光を帯びて加速した。それは剣技ではない。対象の挙動を「あるべき初期状態」へ強制的に書き換える、管理者気取りのデバッグ作業だ。

「は……? 何を――」

重騎士が斧を振り上げるより早く、俺の刃が彼の鎧の隙間に滑り込む。ダメージを与えるのではない。彼が依存している「重騎士アプリ」の動作プログラムに、直接「再起動」の命令を流し込んだ。

『警告:対象のプロセスを再起動します。完了まで300秒の待機が必要です』

「なっ……体が、動かねぇ!?」

重騎士の体が、その場でガクガクと震えながらフリーズする。その背後で、仲間たちが「嘘だろ、アプリがハングした!?」と悲鳴を上げた。
視界の端の数字が、爆発的に回転を始める。

「100……500……1000PV!」

「……よし。この記事は、結構『跳ねる』みたいだな」

俺は、動けなくなった騎士たちの横を通り抜け、碧い空が広がるリージョンの先を見据えた。この世界のどこかに、このクソみたいな利用規約を書いた「運営」がいるはずだ。

「不知火 優斗の物語を読みたいなら、最後まで付き合ってもらうぞ。――アンインストールされるのは、俺か、この世界か」

俺は、初めて自分の意志で、一歩を踏み出した。

【現在の接続数:1,254人】
【コメント:『今の技、解析求む』『新種のデバッグ・チートか?』『面白くなってきたな』】

「ハングした……? 馬鹿な、公式アプリだぞ!?」

「おい、早くリブートしろ! 攻撃されてる!」

動けなくなった重騎士を背後に、仲間二人が慌てふためく。一人は【魔術師(体験版Ver.1.0)】、もう一人は【盗賊(正式版Ver.1.5)】のアイコンを頭上に浮かべていた。

「リブート? 悪いが、俺の『スタートアップ修復』はしつこいぞ。一度捕まると、依存関係(ディペンデシー)のチェックが全部終わるまで終わらない。なにせプログラムを作成して作ったソフトだからな」

昔、こんな事を素人がブログ見ながら修正をやったら間違いなくPC自体を壊すだろうからと思って作ったソフトがあった。
俺は、青白い火花を散らす鉄剣――改め『トラブルシューター』を肩に担ぎ、フリーズした重騎士の横をすり抜ける。彼らの狼狽ぶりとは裏腹に、俺の心臓は早鐘を打っていた。冷や汗が背筋を伝う。さっきの技は、成功したから良かったものの、もし弾かれていたら……。

(……だが、今の賭けは勝った。視界の端の数字が、その証拠だ)

【現在の接続数:1,302人】
【コメント:『公式アプリをハングさせた!?』『どんなロジックだ今の?』『体験版使いの魔術師、草』】

コメント欄が、俺の「デバッグ作業」を肴に盛り上がっている。羞恥心は、すでに恐怖と高揚感に塗りつぶされていた。

「くそっ、このバグ野郎が!【ファイアボルト】!」

魔術師の男が、震える手で杖を向ける。だが、放たれた火球は、俺の数メートル手前で、まるで目に見えない壁にぶつかったように霧散した。

「は……? なんで……」

『警告:現在、システム・リペア(強制復旧)のプロセスが実行中です。周辺リージョンのオブジェクト干渉は一時的に制限されます』

「……なるほど。修復中(デバッグ中)は、外部からの『割り込み(インタラプト)』が入らない仕様か。……ブラウザソフトのプラグイン更新中にサイトが保護されるのと似てるな」

俺は、自分の放ったスキルの「仕様(仕様外の動作)」に、ひとり納得する。この世界は、OSだ。なら、プログラミングやシステム運用の知識は、魔法や剣技よりも、もっと根本的な「ルール」として機能する。

「お、おい、逃げるぞ! あいつ、マジで何かがおかしい!」

「待て、重騎士(リーダー)を置いていくのか!?」

魔術師と盗賊が、仲間を見捨てて逃げ出そうとする。その無様な姿に、さらにPVが跳ねる。

『チップが発生しました: 50GB(ギガ・ブレス)』『通知:サーバー・レベルが上昇しました。新しいリソース・パケットを開封できます』

足元に、先ほどより大きな銀色の光の塊がいくつも転がった。それを回収すると、俺のスマホ画面に新しい「記事(スキル)」がコンパイルされ始める。

新規ビルド:【セキュリティ・パッチ(脆弱性修正)】
元データ:『ブラウザソフトのセキュリティ対策、これだけはやっておけ』
効果:物理・魔法防御力を一時的に大幅上昇。特定の属性攻撃を無効化。

「……ふん。現金な奴らだ」

俺を見世物(コンテンツ)扱いする「観客」たちに毒づきながら、俺は新しいスキルをインストールする。生き残るためには、彼らの「欲望(アクセス数)」を利用するしかない。
俺は、フリーズしたままの重騎士の方を振り返る。

「……300秒(5分)経ったら、その鎧の『初期化』が終わるはずだ。次は、もっとマシなアプリをインストールしてくるんだな」

俺は、彼らの「公式アプリ」への信仰を打ち砕き、碧碧とした空が広がる草原の先へと歩き出した。遠くに見える、巨大な「ゲート(境界線)」。あそこを越えれば、別のジャンルのリージョン(国家)へ行けるはずだ。

「不知火 優斗の物語……。まずは、この世界の『利用規約(ルール)』を、俺自身の手で書き換えるところから始めるか」

俺は、トラブルシューターを腰に収め、スマホの画面に「記事のタイトル」を入力する。

【現在の接続数:2,103人】
【コメント:『次のリージョンはどこだ?』『バグ技、もっと見せてくれ』『公式、仕事しろ』】

俺の物語(コンテンツ)は、今、始まったばかりだ。世界(アプリージョン)が、俺を監視している。なら、俺は世界を、俺の色に染め上げてやる。

あとがき
長編を前に書いてたんです。ただ、途中でやめてしまって放置してて最近になってもう一度、内容を読んだんですが、ちょっと続きを書くのはためらった(所々強引な風に感じた)のでここに投げておきます。もし、リクエストやコメント、メール等で続きを書いてほしい要望が多かった場合は書きます。っても1から書きなおしそうですけどw

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