短編小説 – メッセージ

東京のとある閑静な住宅街。
時計の針が午前2時を指す頃、全てが静まり返った街並みの中で、一軒の家だけが明かりを灯していた。その家の書斎では、30代半ばの女性、小田切真由が震える手でスマートフォンを握りしめていた。彼女の顔には焦りと恐怖が混じり合い、目は画面に表示されたメッセージに釘付けになっている。
「知っているぞ。お前の秘密を。」
短い一文だが、その言葉は彼女の心臓を鷲掴みにした。誰が送ったのか、何を知っているのか、全く見当がつかない。しかし、彼女には心当たりがあった。
10年前、大学時代に起きたある出来事——それは彼女が一生抱えていくと決めた罪だった。
10年前の秋、真由は大学のサークル仲間と山奥にキャンプに出かけた。その夜、仲間の一人である村上亮介が行方不明になった。警察や地元住民による捜索が行われたが、結局彼は発見されることなく行方不明者として扱われた。
表向きは事故として処理されたが、その夜に何が起きたのかを知る者は真由ただ一人だった。
真由と亮介はその夜、些細なことで口論となり、感情的になった真由が亮介を突き飛ばした。亮介は足を滑らせ、崖下へと転落した。恐怖に駆られた真由はその場から逃げ出し、誰にも何も言わずにその出来事を心の奥底に封じ込めた。
メッセージが送られてきた翌日、真由は会社を早退し、自宅で一人考え込んでいた。誰が知っているのだろうか?村上亮介本人であるはずがない。彼は確実に死んだはずだ。それとも、あの夜誰かが見ていたのか?
その夜、再びスマートフォンに通知音が響いた。新たなメッセージだった。
「10年前のことを話さなければ、お前の人生を破滅させる。」
真由は震える手で返信を打ち始めた。
「あなたは一体誰なの?何が目的なの?」
返事はすぐに返ってきた。
「知りたければ明日の午後8時、駅前のカフェで話し会おう。警察には連絡するなよ。」
翌日、真由は指定されたカフェに向かった。店内に入ると、一番奥の席に黒いフードを被った人物が座っているのが見えた。彼女は緊張しながらその人物に近づいた。
「小田切真由さんですね。」
低い声が彼女を迎えた。
「あなたは誰ですか?」
真由は声を震わせながら尋ねた。
フードを脱いだその人物は、10年前とほとんど変わらない姿だった——村上亮介だった。
「どうして……生きているの?」
真由は驚きと恐怖で声にならない声を絞り出した。
「俺はあの崖から落ちたけど、運良く木に引っかかって命拾いしたんだ。ただ、その後記憶を失っていてね、最近になってようやく思い出したんだよ。」
亮介の目には怒りと悲しみが宿っていた。
「あの時、お前は俺を助けようともせず、逃げたんだな。」
「違う……私は……」
真由は言葉に詰まった。
「俺はお前を許すつもりはない。ただ、お前にもこの10年間苦しんできた罰は十分だろう。」
亮介は立ち上がり、小さなUSBメモリを机に置いた。
「ここには俺が記憶を取り戻すまでの日々を書き留めた記録がある。これを読んで、自分自身と向き合え。」
そう言うと、亮介はカフェを後にした。真由はその場で動けなくなり、USBメモリを手に震えるだけだった。
それから数週間、真由は亮介から渡された記録を読み続けた。その内容には、生き延びた亮介がどれだけ苦しみながら記憶を取り戻したか、そして彼自身もまた孤独と戦い続けていたことが記されていた。
最後のページにはこう書かれていた。
「お前がこの先どう生きるか、それを決めるのはお前次第だ。ただし、俺はもう過去に囚われるつもりはない。」
真由は涙を流しながらその言葉を読んだ。そして、初めて自分自身と向き合う決意をした。彼女は警察署へ向かい、自ら10年前の出来事について全てを告白することにした。
数ヶ月後、真由は社会的な制裁を受けながらも、新たな人生を歩み始めていた。一方で亮介もまた、自分自身の人生を取り戻すため、新たな道へと進んでいった。
過去から逃げ続けることはできない。しかし、それと向き合い乗り越えることで、人は再び前へ進むことができる。二人ともそれを学ぶまでに長い年月を要した。
それは二人にとって新しい始まりだった。
あとがき
自分自身と向き合ってみる事も時には必要です。
他人の人生をめちゃくちゃにしてそのまま放置だなんて、、、いけませんよね。
(とゆーか、ようやくブログの更新が出来た(ごにょごにょ))
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