短編小説 – 雨の日の約束
- 2025.04.11
- 小説

小さな町の片隅にある古びた喫茶店「雨音(あまね)」。その店名の通り、雨の日になると不思議と客が集まる場所だった。
木製のドアを開けると、コーヒーの香りとともに静かなピアノの音色が迎えてくれる。店内には古い時計があり、カチカチと規則正しく時を刻んでいる。
その日も朝から雨が降り続いていた。店内の窓ガラスには雨粒が踊り、外の景色をぼんやりと歪ませている。カウンター席に座ったのは、黒い傘を持った若い女性だった。
彼女の名は沙織(さおり)。いつもは晴れた日にしか来ない彼女が、今日は珍しく雨の日に訪れていた。
「いらっしゃいませ、沙織さん。」
店主の田中が笑顔で声をかける。彼はこの店を30年以上切り盛りしている温厚な男性だ。
「こんにちは、田中さん。今日は少し特別な日なんです。」
沙織は微笑みながら答えた。その手には小さな革張りの日記帳が握られている。田中は彼女のためにいつものカフェラテを用意しながら、少し気になって尋ねた。
「特別な日、ですか?」
沙織は頷き、窓際の席に移動した。そして、雨音を聞きながら日記帳をそっと開いた。
「実は、10年前の今日、この喫茶店で大切な約束をしたんです。」
彼女の声はどこか懐かしさを帯びていた。10年前、まだ高校生だった沙織は、この喫茶店で一人の少年と出会った。
名前は悠太(ゆうた)。彼もまた雨の日にふらりとこの店に立ち寄った一人だった。当時、二人はお互いに悩みを抱えており、自然と話が弾んだ。
初めて会ったその日に、二人は「10年後の今日、またここで会おう」と約束を交わした。
「でも正直、悠太君が本当に来るかどうか分からないんです。」
沙織は苦笑いを浮かべた。
「ただ、この雨の日にここで待ってみたくて。」
田中は彼女の話を黙って聞いていたが、ふと優しく微笑んだ。
「約束というものは、不思議な力を持っていますよ。きっと彼も覚えているんじゃないでしょうか。」
時間はゆっくりと過ぎていった。沙織はコーヒーを飲みながら窓の外を眺め、時折日記帳に目を落とす。雨は一向に止む気配がない。
午後3時を過ぎた頃、喫茶店のドアが静かに開いた。振り返ると、そこには黒い傘を持った一人の青年が立っていた。彼は少し緊張した面持ちで店内を見渡し、そして沙織と目が合った。
「……沙織?」
青年が驚いたように声を上げる。
「悠太君!」
沙織も思わず立ち上がった。二人は10年ぶりの再会を果たした。それぞれ大人になった姿ではあったが、その笑顔にはあの日の面影が残っていた。
「本当に来てくれたんだね。」
沙織が嬉しそうに言うと、悠太も照れくさそうに頷いた。
「忘れるわけないだろう。あの日の約束は、俺にとっても特別だったから。」
二人は窓際の席に座り、昔話やこれまでの人生について語り合った。雨音が静かに二人を包み込み、時間が止まったかのようなひとときだった。
やがて雨が止み、夕日の光が差し込んできた。二人は再び会う約束をして、それぞれの道へと帰っていった。
古びた喫茶店「雨音」には、その日また一つ新しい思い出が刻まれた。そして、この場所はこれからも、人々の心をそっと繋ぐ場所であり続けるだろう。
あとがき
雨の日は気持ちも少しどんより気味。そんな時は誰かと会話したり悩みをうちあけたりして気持ちは晴れやかなものとして過ごしていきたいですねえ。ところで、最近雨が降るたびに雷も一緒にやってくるよね。お気をつけて。
つか、もう書くネタがない。どうしよ。。。
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