短編小説 – 幽霊屋敷

ある日の夜、私は友人の勇斗と一緒に地元で有名な「幽霊屋敷」と呼ばれる廃墟に足を踏み入れることになった。そのきっかけは勇斗が「肝試しだ!」と言い出したからであった。
正直、私はあまり乗り気ではなかったが、断るのもなんだか情けない気がして、「まあ、ちょっとだけなら」と軽い気持ちでついていくことにした。今思えばここで引き返したら良かったのにと後悔をしている。
勇斗と私は町外れの森の中にひっそりと佇んでいた屋敷へと行った。外見は古びた木造の建物で、窓ガラスはほとんど割れ、屋根はところどころ崩れている。見ただけで『ここには入りたくない』と思わせる雰囲気を漂わせていた。私は玄関から中へと入れずにいた。
なかなか屋敷に入ろうとしない私に懐中電灯を片手に持った勇斗は、
「怖いなら帰ってもいいけど?」
と笑いながら私をからかった。
「べ、別に怖くないし!!」
と強がりながらも、内心はドキドキしっぱなしであった。
「じゃあ入ろうぜ!」
勇斗はそう言って玄関の扉を押し開けると、ギギギ…という不気味な音が響き渡る。
「ヒッ…」
私は声をもらしてしまったが、勇斗は気にしていないようだった。そして中は薄暗く、埃っぽい空気が鼻をついた。壁には黒ずんだシミがいくつも広がっており、床はギシギシと不安定な状態だった。
「じゃあ行くぞ!」
私たちはゆっくりと進んだ。そして何事もなく玄関の奥の部屋に入ると…
「おい、見てみろよ!」
勇斗が指差した先には、古びた鏡が立てかけられていた。私は駆け寄り、鏡の表面を見ると曇っていて、ぼんやりと自分たちの姿が映っている。
「なんか、この鏡ヤバくね?」
と冗談半分で言う勇斗に、
「触らないほうがいいって!!」
と私は警告したが、彼は無視して鏡に手を伸ばした。
その瞬間、鏡の中に映る勇斗の顔が突然歪み始めた。目が大きく開き、口元が不自然に引きつった笑顔を作る。
「ねえ、やめてよ!なんでそんな顔してんのよ!」
私は半ばパニックになりながら勇斗を揺さぶった。しかし、勇斗は鏡から手を離さず、
「まずいぞ…まったく動かせない…いや、動けない」
と呟いた。
その直後、鏡の中から冷たい風が吹き出し、部屋全体に広がった。電灯の光も弱まり、周囲がさらに暗くなる。そして、鏡の中から何か黒い影のようなものがゆっくりと這い出してきた。それは人型をしているが、顔も手足もぼやけていて、まるで闇そのものが形を成したようだった。
「ちょっと!早く逃げよう!」
私が叫ぶと同時に勇斗の体が鏡に引き寄せられ始めた。
「だめだ。やっぱり動けない!早く助けろ!」
と叫ぶ勇斗は鏡に少しずつ吸い込まれていた。私は必死で勇斗の腕を掴んだが、その力はまるで吸い取られるように弱まっていった。
「なんで…? 力が…はいらない!?」
「くそっくそっ!!!」
そして次の瞬間、彼はその言葉を最後に完全に鏡の中へと消えてしまった。
呆然と立ち尽くす私の背後から、
「次は君だよ」
という低い声が聞こえた。振り返るとそこには先ほどの黒い影が立っていた。その顔には勇斗の歪んだ笑顔が浮かんでいる。
「なんで!誰か助けて!」
私は叫びながらその部屋を飛び出し、周りに目もくれず屋敷を出た。そしてそのまま家に帰り、扉の鍵を閉め、ガタガタと震えながら座り込み、その日はそのまま眠りについてしまっていた。
翌日、私は両親に相談し、警察に通報して屋敷を調査してもらったが、中には何も見つからなかった。
もちろん勇斗も行方不明のままだ。勇斗の両親に説明をしようと私と両親が勇斗の家に向かったが、そこは居たはずの勇斗の両親はすでにおらず、空き家となっていた。
あの日以来、私は二度とその屋敷には近づいていない。そして今でも夜になると、鏡を見るのが怖くて仕方がない。どこかで勇斗が私を見ているような気がしてならないのだ。
もしあなたも肝試しをするつもりなら、一つだけ忠告しておこう。
「触れてはいけないものには絶対触れるな」。
それだけで命拾いするかもしれない。
あとがき
知らない所、土地に無断で侵入してはいけません。それが廃墟だとしても…。
何があっても自己責任とはこの事。
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