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短編小説 – 風の囁(ささや)き

短編小説 – 風の囁(ささや)き

小さな町、秋津野原(あきつのはら)。四方を山に囲まれたこの町は、昔から風の音が美しいことで知られていた。
特に春と秋になると、山から吹き下ろす風が木々を揺らし、まるで誰かが囁いているかのような音を奏でる。町の人々はそれを「風の囁き」と呼び、大切にしてきた。

秋津野原に住む高校生、蓮(れん)は、幼い頃からその風の音が好きだった。学校の帰り道、川沿いの土手に座り、耳を澄ませて風の音を聞くのが彼の日課だった。
蓮は絵を描くのが得意で、風の音を聞きながらスケッチブックに町の風景を描くのが何よりの楽しみだった。


しかし、最近になって町には奇妙な噂が広がっていた。

「夜になると、風の音に混じって誰かの声が聞こえる」

というのだ。それはただの風の音ではなく、人間の声に近いものだという。噂を聞いた蓮も興味を持ち、ある夜、土手に出かけてみることにした。
月明かりが薄く照らす静かな夜。蓮はスケッチブックを抱えながら土手に腰を下ろし、耳を澄ませた。最初はいつもの風の囁きだけが聞こえていた。
しかし、しばらくすると、それに混じって確かに何か別の音が聞こえてきた。

「…助けて…」

蓮は驚いて立ち上がった。確かにそれは人間の声だった。
だが、周囲には誰もいない。声は風と共に流れ、すぐに消えてしまった。
しかし、その夜以来、蓮はその声が気になって仕方がなかった。


翌日、蓮は親友の真琴(まこと)にその話をした。真琴はオカルト好きで、こうした話には目がない。

「それは絶対に幽霊だよ! 昔、この町で何か悲しい出来事があったんじゃない?」

と興奮気味に話す真琴に対し、蓮は半信半疑だった。しかし、その声が本当に何なのか確かめたいという気持ちは日に日に強くなっていった。
数日後、蓮と真琴は再び夜の土手に出かけた。二人とも懐中電灯を持ち、慎重に耳を澄ませた。その夜も風は吹いていた。そして、またあの声が聞こえた。

「…ここにいる…」

真琴は怖がりながらも懐中電灯で周囲を照らした。しかし、何も見つからない。

「やっぱり幽霊だよ!」

と震える真琴をよそに、蓮は声の方向を追い始めた。声はどうやら山の方から聞こえてくるようだった。

二人は勇気を出して山道を進んだ。途中、小さな祠(ほこら)が現れた。木々に囲まれたその祠は古びており、長い間誰にも手入れされていない様子だった。蓮は直感的に、この祠が声の源ではないかと思った。
祠の前で立ち止まったその時、不意に風が強く吹き抜けた。そして、その風と共にまた声が響いた。

「見つけてくれて、ありがとう…」

それはこれまでとは違い、どこか安堵したような声だった。次の瞬間、風はぴたりと止み、辺りは静寂に包まれた。


その後、蓮と真琴は町の古老から話を聞いた。昔、この祠には「風神」が祀られており、人々は風の恵みに感謝していたという。しかし時代が進むにつれて祠は忘れ去られ、その存在すら知られることが少なくなっていた。

蓮と真琴は祠を掃除し、新しいお札を用意して祀った。それ以来、不思議な声は聞こえなくなった。町の「風の囁き」は以前にも増して美しい音色を奏でるようになったという。

秋津野原には今でも春と秋になると柔らかな風が吹き、人々はその音色に耳を傾ける。そして蓮は今日もスケッチブックを手に土手に座り、その風景を描き続けている。彼にはもう一つ確信していることがある。
この町には見えない何かが確かに存在し、人々を見守っているということだ。
それはまるで、「風」が町そのものと語り合っているような気配だった。

あとがき
語り継がれるべき事柄もふとした自然災害や突発的な病気等で時には途切れてしまう事もあるが、途切れないようになにか工夫して、大事な事は語り継がれていってほしいと思うのであった。。。もしかしたらこの小説内の世界には雷神もいるかもしれませんね。