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短編小説 – 星降る夜の秘密

短編小説 – 星降る夜の秘密

小さな地方都市にある古びた図書館。
その建物は、時代を感じさせる重厚な木造の扉と、蔦が絡まるレンガ造りの外壁が特徴的だった。
この図書館には、夜になると「星降る部屋」と呼ばれる特別な空間が現れるという噂があった。

図書館司書の佐藤愛衣は、その噂を耳にするたびに苦笑していた。

「星降る部屋」などというロマンチックな話は、地元の伝説に過ぎないと彼女は考えていた。
だが、ある夜、彼女はその噂が単なる作り話ではないことを知ることになる。

その日は閉館後も残業があり、愛衣は一人で書架の整理をしていた。
時計の針が深夜0時を指した頃、ふと背後から微かな風の音が聞こえた。
振り返ると、普段は固く閉ざされている地下室への扉がわずかに開いているのに気づいた。

「おかしいわね……今日は誰も入っていないはずなのに。」

愛衣は少し躊躇したものの、好奇心に駆られて地下室へと足を踏み入れた。
階段を降りると、そこには薄暗い空間が広がっていた。
しかし、奥へ進むにつれ、光の粒が空中に舞い始めた。
それはまるで星空が目の前に広がっているかのようだった。

「これは……もしかして、ここが星降る部屋?」

愛衣は息を呑んだ。
部屋の中央には古ぼけた木製の机があり、その上には一冊の厚い本が置かれていた。
本の表紙には「記憶録」とだけ書かれている。
彼女は恐る恐るその本を開いた。

不思議なことに、本の中には文字ではなく、映像が浮かび上がっていた。
それはまるで誰かの記憶を覗き見ているようだった。
最初に現れたのは、幼い頃の愛衣自身の姿だった。
懐かしい風景や家族との思い出が次々と映し出される。

「どうして……私の記憶がここに?」

驚きと戸惑いの中でページをめくり続けると、次第に自分だけではない記憶が現れるようになった。
それは図書館を訪れた人々の人生の断片だった。
喜び、悲しみ、怒り、そして愛――様々な感情が渦巻く記憶の数々。

その瞬間、愛衣はこの図書館がただの建物ではないことを悟った。
この場所は、人々の記憶や思い出を「」として蓄える特別な空間だったのだ。
そして「星降る部屋」は、それらの記憶を映し出すために存在していた。

しかし、愛衣には一つ疑問が残った。
この本を誰が作り、誰が管理しているのか。
答えを求めてさらにページをめくると、最後のページに一つのメッセージが記されていた。

「この記憶録を託す者へ。ここに集められた記憶は、人々の願いや想いそのものです。どうか、この星々を守り続けてください。」

それを読んだ愛衣は、胸の奥に温かな感情が広がるのを感じた。
自分にはこの図書館を守る使命がある――そう確信した。

翌朝、愛衣はいつも通り図書館で仕事を始めた。
地下室で体験した出来事は夢だったのかもしれないとその時は思っていた。
しかし、その日から彼女は、訪れる人々一人ひとりとの会話や交流を以前にも増して大切にするようになった。

そして残業で遅くなった時になると、ふらっと彼女は時折地下室へ足を運び、「星降る部屋」で人々の記憶に静かに思いを馳せるのであった。
やはり夢ではなかったと気付かされた。

「星降る部屋」

それは彼女だけが知る秘密――人々の人生と想いを繋ぐ、小さな奇跡の物語だった。